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海外生産を形にする
SPECIAL
EPISODE
3

海外生産を
形にする

工業機材事業本部 製造本部
製造管理部長
1995年入社
T.N

アメリカに生産拠点を立ち上げる。
「NORITAKE」の研削工具を世界に広めるために。

「Please call me “T.N”」

これから仲間として働く人たちに、親しみを込めてそう呼びかけた。アメリカに新たな生産拠点を立ち上げて、軌道に乗せる。そのミッションを成功させる上で、現地スタッフの協力が何よりも重要であることはよく分かっていた。とは言っても、そうした仲間が最初からそこにいたわけではない。2003年に渡米した時点で、工場の関係者はT.Nただ一人。一緒に働くメンバーを募るところから、業務がスタートした。

日本で技術者として働いていた時は、社員の採用を経験したことはない。採用面接を行うこと自体が未経験。しかもそれを、慣れない英語で行わなければならない。試練と呼べる状況が、渡米直後にいきなり訪れた。それから約7年後に帰国するまで、T.Nは100人ほどの面接を経験することになる。

そうして何とか人材を採用できたとしても、そこで一息ついている暇はない。技術の指導という、さらに大きなハードルが待っていた。NCI(米国ノリタケ)で生産するCBN工具は、主に自動車のエンジン部品を削る際に使われる製品。エンジン部品の精密化、高性能化が求められる中、その高次元の要求に応える付加価値の高い工具として、各メーカーから支持を集めていた。しかしそのCBN工具をアメリカで生産するためには、日本国内と同様の高い技術を現地のスタッフに定着させる必要がある。

実はT.Nは、技術指導をスムーズに進めるために、詳細なノウハウを分かりやすく記した作業手順書を自分の手で作っていた。そのページを開き、自ら実演しながら指導に努める日々。しかし、そうしたコミュニケーションも、すべて予定通りというわけにはいかなかった。たとえば、「ネジを10ミリ締める」という指示をする時。アメリカでは「インチ」という単位を使うのが一般的で、「ミリ」で書かれた内容をインチに計算し直して伝える必要があった。頭の中で数字を計算し、言葉で指示し、同時に身体で実演する。その同時作業が混乱をきたし、日本語が混じることもしばしばだった。

採用や技術指導だけではない。設備の発注や設置から、生産ラインの構築、さらには安全衛生管理や環境管理まで、幅広い業務を自分で手がける必要があった。

「初めて経験することばかりで毎日がめまぐるしく、6年間があっという間に過ぎました」
と、T.Nは振り返る。

そんな中で出会った思い出深い人物がいる。現在はNCIの製造現場を取り仕切るマネージャーで、名前をAという。T.Nより少し年上のAは、当時、「現場たたき上げ」という言葉がぴったりの職人だった。だから当然、自分の仕事や腕には誇りを持っている。T.Nが何か指示したとしても、内容に納得できない限り簡単に動こうとはしなかった。しかしひとたび「やる」と言った後は、安心して任せることができた。

「T.Nは口を出さないでくれ。心配するな」
とAから言われたことも何度もある。T.Nが苦労しながら手さぐりでこの工場をゼロから作り上げていく姿を、間近で見ていたからだろう。本当に困っている時は「しょうがないな」と言いながら、必ず助けてくれた。

「国や人種が違っても、熱意を持って接すれば必ず伝わる」
と心から実感できたのも、Aとの出会いがあったからだ。

こうしたT.Nたちの取り組みを一例として、ノリタケの工業機材事業は海外への展開を積極的に進めている。2011年にはタイにも研削工具の製造販売拠点を設立。海外拠点立ち上げの経験者であるT.Nも何度かタイに足を運び、工場管理などの指導を行った。さらに今後も自動車メーカーや自動車部品メーカーの海外展開に伴って、現地での高付加価値工具の需要は高まることが予想されている。

ノリタケのCBN工具は、製品自体の品質・性能だけでなく、効果的な「使い方」の提案や顧客の用途に合わせた設計対応がひとつに組み合わさって、付加価値を生み出している。つまり、きわめてオーダーメイド性の高い研削工具。しかし、それを顧客の製造現場に合った形で提供するためには、コミュニケーションを取りながら細かい設計変更などを行う必要が生じる。

「加工能率をもっと上げたい」

「工具をこんな風に改善したい」

という声にタイムリーに応えていくために、今後も新たな国々への技術展開が進むことは間違いない。技術者の立場から見れば、海外で力を試すチャンスは大きく広がっている。

現在は日本で、製造管理部長を務めるT.N。工場の予算づくりや実績管理、情報システムの管理・運営、原材料の購買など、いわば工業機材製造本部全体の管理を担う立場だが、そうした仕事を進める上でも、海外で得た経験が大いに役立っているという。

ところでアメリカ滞在中に、こんな出来事があった。子供を連れて近所の公園に行った時、たまたま言葉を交わした地元の人と、世間話をする中で何気なく仕事の話になり、「どこに勤めているんですか?」と聞かれた。

「NORITAKE」

という名前を聞いてその相手は、

「ああ、知ってる知ってる」

とうなずいた。

「まさか知っているとは思わなかったので、とてもうれしく思いました100年以上の昔から海外に輸出を行い、長い時間をかけて培われてきたブランドの力というのはやはりすごいものですね。誇りに感じるべき財産だと思います」

その相手が知っていたのは食器ブランドとしてのノリタケの名前である。もちろんそれ自体も誇るべきことだが、今後は自分が携わる工業機材の分野でも、海外の人に「あのノリタケだね」と言ってもらえるよう、これからも世界中に「より良い製品とサービス」をお届けしたい。それがT.Nの夢見る未来像だ。

※社員の所属部署は取材時のものです。

PROFILE

PROFILE

PROFILE

1995年に入社し、技術部門で工業用砥石の開発や評価などに携わる。その後、2003年から2009年まで約7年間にわたってNCI(米国ノリタケ)に赴任。現在は工業機材事業本部 製造本部で工業機材製造本部全体の管理業務に取り組む。

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